Ⅳ ~揺れる想い~

6/17

2643人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
 ヒナはハッと顔を上げた。  一つだけ思い当たることがあったのだ。 「もしかして、昨日食べたホットケーキ?」  ホットケーキに入れた卵が悪かったのか。それとも牛乳? 添えた生クリームかも?   ちゃんと期限は見ていたのに。  そう思い、ヒナはギクリと身体を竦ませた。 「……樹くん」  彼は大丈夫なのだろうか。  不安が一気に押し寄せてくる。  慌てて浴室から出たヒナは、脱衣所で素早く着替え、樹の元へと走った。 「い、樹くん!」  すっかり着替え終えた樹は、ヒナの代わりにキッチンに立ち、フライパンを握っていた。  きょとんとした顔で不思議そうに口を開く。 「どーしたの、ヒナ? そんな怖い顔して」 「樹くん、どこも痒くない!?」  紙のように色を失ったヒナは、慌てた様子で樹にたずねる。 「は? 痒い?」  なにそれ? と樹は首をひねった。 「昨日食べたホットケーキ、なにか変なものが入ってたかも知れないんだ! 私、じんましんが出てるから、樹くん、大丈夫かなって」 「! ……じんましんが出ちゃったの? ヒナ、大丈夫?」  ヒナの言葉に樹はスッと双眸を細め、唇を綻ばせた。 「うん 、大丈夫なんだけどね。たくさんあるんだ。身体中、いっぱい!」 「いっぱいなんだ。ふうん。見せて?」  心配そうな顔をして、樹はヒナの上着をぺろんと捲った。  ヒナはあっと声を上げ、胸まで見えそうなほど捲られた服を慌てて下へずらす。  そして、少し見えたお腹を指さして、 「……こことか、ここも」  樹に状況を説明し、同じものがないか彼に尋ねてみた。 「ホントだ。これは間違いなく『じんましん』だね。ボクは出てないけど、ヒナは今日学校休んだ方がいいよ。もっとヒドくなるかも知れないからね。――――大丈夫。今日一日ボクがそばに付いててあげるから」  にこりと優等生な笑みを浮かべながら、樹はそんなことを言ってくる。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2643人が本棚に入れています
本棚に追加