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「ありがとう。でも、ダメだよ。樹くんはちゃんと学校行かなきゃ。私は病院行って寝てるから。ね?」
「んー。病院は行かなくってもいいんじゃない? それって見たところ、温熱蕁麻疹や寒冷蕁麻疹って感じだから、ほっといても治るよ。一過性のものだからね。――――安心して、今日は一日ゆっくり寝てな」
そう言って、樹はヒナをベッドへと押し込めてしまった。
「ごめんね、樹くん。でも、学校はちゃんと行ってね?」
「いいよ、別に。どうせ小学校程度の勉強なんて見なくても分かるし。日本の学校制度に飛び級があったら、ボク、間違いなく大学通ってるレベルだから」
ヒナの学校へ行けという言葉に、樹は頑として首を縦に振らない。
あまりにも頑なな樹の態度に、ヒナは諦めて大息を吐いた。
「ところで樹くん。……昨日のことなんだけどね。私、お風呂から出た記憶がないんだよ。のぼせちゃったのかな? あれ? でも、樹くんがイジワルして水、浴びせたから、のぼせてはないと思うんだけど……気が付いたらベッドにいたし。なんでちゃんとパジャマ着てたんだろ?」
昨夜の記憶を手繰り寄せながら、ヒナは眉尻の下がった心許無い顔つきで樹を見た。
そして、「おや?」と首を傾ける。
一瞬、樹の頬の筋肉がピクリと引き攣った気がしたから。
「……ヒナ、かなりのぼせてたからね。ほら、湯気とかで。フラフラしながらだったけど、ちゃんと着替えたりしてたんじゃないかな? ――――詳しく見てたわけじゃないから、よく分からないけど」
そう言って、樹はにっこりと微笑むんだけれど。
なんだろう。
その笑みは、なんだか胡散臭いというか、嘘くさいというか。
ヒナは猜疑心(さいぎしん)で曇った目を向けてしまう。
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