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ベッドの上で横になりながら、ヒナは自分の頬に手を当てた。
「……やっぱり熱い……」
手のひらがひんやりと冷たく感じる。
手のひらも熱を持っていたけれど、それ以上に頬の熱の方が高かった。
今度は額に手を当ててみる。やはり熱い。風邪を引いてしまったのかもしれない。もしかすると、じんましんもそのせいかもしれないとヒナは思う。
昨夜、樹に水なんて掛けられたから?
そう思い、ヒナはムッと唇を尖らせた。
「樹くんは、優しいけどイジワルだ」
シーツを顔まで引き上げて、ヒナはキッチンにいる樹へと意識を向けた。
キッチンから良い香りが漂ってくる。
この香りはきっとクラムチャウダーだろう。
樹はヒナの好きなものを知っている。
だからきっと、樹はヒナの好きなクラムチャウダーを作ってくれているんだろうと嬉しく思う。
――――樹くんは優しい。けれど、イジワル。
ヒナはシーツにくるまったまま小さく溜息を吐いた。
昨夜の記憶は朧で、あまり思い出せない。
靄に包まれたみたいに、はっきりと思い出せない部分があるのだ。
ただ、樹が別人のようにとても怖かったという記憶ははっきりとあった。
樹はヒナのことが好きだと言った。
それは自分に向けられた、激しいまでの執着・恋慕だったように思う。
彼自身がヒナの身を焦がす熱源のように、熱い、熱い想い。
思い出して、またヒナの身体に熱が灯る。どうしようもなく熱くなる。
もうどうしていいかわからない。
ヒナは思った。
なんで自分なのかと。
ヒナは未だかつてモテたことなんて一度もなかった。
お母さんはヒナのことを可愛いと言ってくれるけれど、それはあくまで身内だからだと知っている。
他人から激しいまでに求められた記憶など、過去の記憶を辿ってみても見つかりはしない。
樹だけだった。
「どうしたら、いいのかな」
ここにきて初めて、ヒナは樹との関係を真剣に考え始めたのだった。
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