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ヒナの椅子を引くと、樹は照れた自分を隠すように「ヒナ、さっさと座る!」と強い口調で促した。
引かれた椅子に座ったヒナは、くるっと振り返り「ありがとう!」と弾む声でお礼を言った。
樹は眩しいモノでも見たような顔で目を瞬かせ、ヒナを凝視したままその場に固まってしまう。彼の顔がみるみる赤く染まってゆく。が、テーブルに並べられた料理を嬉々と見つめるヒナは、樹の表情の変化には気付けなかった。
「わあ、本当にすごいね、何度見てもビックリだよ! 樹くんは何でも出来ちゃうんだもんなあ。私がお料理教えて欲しいくらいだよ」
「いくらでも教えてあげる。ヒナがボクをお嫁さんにもらってくれたら、好きなもの毎日作ってあげちゃうよ?」
「うわあ、それは魅力的だねえ! 樹くんならすぐにでもお嫁さんになれそうだ!」
真意を推し量るような、心の内を見透かそうとするような、そんな樹の視線をヒナは満面の笑顔で跳ね返す。
樹は器用に片眉だけを吊り上げた。
「……ヒナのそばに一生いられるなら、妻でも夫でもペットでも、もうなんでもいいよ」
嘆息混じりな樹の低い呟きは、嬉しそうに唇を綻ばせるヒナには届かない。
「いただきまーす」と嬉しげに手を合わせたヒナは、大好きなクラムチャウダーに手を伸ばした。
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