2643人が本棚に入れています
本棚に追加
結局その日も、樹はヒナの家に泊まることになった。
夕方、心配した樹の母親・鷹城寧音(たかじょう ねね)が、ヒナの家を訪ねてきた。
寧音はフランス人とのクウォーターで、世にも珍しい紫の瞳を持つ美しい女性だ。
樹の容貌は、彼女に共通したところが多分にある。
美しくて優しい寧音は、ヒナにとって憧れの女性。
彼女の来訪に、ヒナは浮き足だった。
寧音の顔を見て、ヒナは「こんばんは!」と弾けるような笑みを浮かべる。
瞬間、嬉しそうなヒナの隣で彼女の様子を見守っていた樹の相貌がムッと曇った。
「ごめんね、ヒナちゃん。樹が何か迷惑掛けてない?」
申し訳なさそうな顔をする寧音に、ヒナはわたわたと忙しなく両手を振りながら、
「そんな! 寧音さん、私こそ樹くん勝手に学校休ませちゃってごめんなさい」
何度も頭を下げて謝った。
「いいのいいの。この子、言い出したら全然聞かないんだもん。私がいくら言ってもダメ。テコでも動かないの。だからヒナちゃん気にしないでね。あ、そうだ、これ。樹にヒナちゃんが具合悪いって聞いたから、消化に良さそうなもの作ってきたの。後で食べてね」
「うわあっ、嬉しい! ありがとうございます!」
寧音に手渡されたタッパー数個を受け取って、ヒナは大切にそれらを抱え込みながら飛び上がらんばかりに喜んだ。
二人のやり取りをじっと見つめていた樹は、不機嫌にボソリと呟く。
「……余計なコトすんな。ボクだってそれくらい作れるし」
イライラと舌打ちせんばかりの顔で、樹はヒナと寧音の間に割って入ってくる。
と、ふいに寧音の紫の双眸がヒナの首筋でピタリと止まった。
最初のコメントを投稿しよう!