Ⅳ ~揺れる想い~

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「拉致監禁って、やだ、寧音さん、じょ、冗談……ですよね? あ、あ、樹くんなら大丈夫ですよ? お行儀の良い子ですし、特に問題はないです」  寧音が発した恐ろしいセリフに頬を引き攣らせながら、ヒナは「樹くんは大丈夫」だと繰り返す。  なぜこんなにも寧音が動転しているのかわけが分からなかったが、取り敢えず樹のことはちゃんと伝えておこうと、「心配ない」と擁護の言葉を切り出した。 「ヒ、ヒナちゃん……」  うるうると寧音が紫水晶の瞳を潤ませた――――その時。  ピンポーンと玄関チャイムが鳴り響く。  その音にビクーッと寧音の身体が硬直する。  素早く寧音の脇をすり抜けて玄関扉を開けた樹は、扉の外の人物を見てほくそ笑んだ。 「こんばんは、ヒナちゃん」  聞こえて来たのはバリトンの甘い声。  扉の向こう側でゆったりと静かな笑みを浮かべるのは、樹の父親・鷹城総一郎だった。 「ごめんね。樹がどうしてもヒナちゃんと居たいっていうものだから。本当に、本っ当に、樹が居ても構わないのかい?」  秀麗な容貌を申し訳なさそうに曇らせて、けれど、釘を刺すような強さで、総一郎はヒナに問う。  その問いに、ヒナは深く考えることなくこくりと頷いた。  総一郎は鋭利な双眸を嬉しそうに細めると、 「そうですか。ありがとう、ヒナちゃん。では寧音。僕達もそろそろ行きましょうか」  ぐいっと寧音の腕を掴んで引き寄せた。
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