Ⅳ ~揺れる想い~

17/17
前へ
/207ページ
次へ
「ちょちょちょっ、待って、サンパウロには行かないからね! 私は日本で仕事があるんだから! あっ、い、樹は!? ヒナちゃんに、め、迷惑でしょ! 連れて帰るから!」 「ヤ。ボク帰らない。父さん、母さん早く連れてってよ。うるさいから」  しっしと手を振り、樹は寧音を追い払おうとする。 「ヒナちゃんはいいの? 樹がいても」  総一郎は寧音を納得させるために再度ヒナに確認してくる。  ヒナは二パッと微笑み、大きく頷いた。 「はいっ! 美術教えるって約束もしましたし、私一人だと怖いので……樹くんがいてくれて安心なんです」  ヒナの言葉に、ムッとしていた樹の顔が一気にほころぶ。 「ふふっ。ホラ、ヒナも安心するって言ってるじゃん。とっとと帰ってよ、イロイロと邪魔なんだよね」  「イロイロってアンタ何する気!?」ぎゃーっと頭を抱える寧音の悲壮な叫びを遮断するように、樹はさっさと玄関扉を閉めて鍵を掛けてしまう。  そして、くるりと振り返り、樹はしおらしく頭を下げた。 「……ごめんね、ヒナ。あの人達、賑やかだから」 「ううん。なんかいつ見ても仲良しさんだね、樹くんのパパとママ」  ヒナは二人の様子を思いだしてクスリと笑う。  寧音はなんだか誘拐犯にでも捕まったような顔をしていたが、樹の父・総一郎は、妻を抱きしめながら蕩けんばかりの微笑を浮かべていた。  ヒナはいつまでも仲の良い二人が羨ましいなと思ってしまう。 「……仲良し、ねえ。ボクもあの二人みたいに、鬱陶しいくらいベタベタしてみたいよ……」  脱力したように廊下の壁にもたれかかった樹は、キッチンへと向かうヒナの後ろ姿を目で追いながら、ポツリと溜め息混じりに呟いた。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2643人が本棚に入れています
本棚に追加