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「……さっきから樹くん、パソコンで何してるの?」
ヒナは樹の肩越しにパソコンを指差した。
「見たい?」と樹が聞くので、ヒナはこくりと頷いた。
テーブルに置いてあるノートパソコンを取りに行った樹は、ヒナの近く、カウンター前にそれを置く。
「おいでおいで」と手招きされ、チェアに腰掛ける樹の隣へと移動したヒナは、彼が弄るパソコンをチラリとのぞき込んでみた。
画面には折れ線グラフが細かく表示されている。
「樹くん、これなに?」
「株価だよ」
パソコン画面に視線を戻した樹は、カシカシとキーを打ちながら答えた。
「……株価?」
「ん。小さい頃から父さんに教えてもらっててね。株とかで儲けた利益を資産運用とかに回して遊んでる。これはボクの趣味」
ちなみに今すぐ動かせる貯蓄額は――――と、樹はキーを弄り出す。
画面に表示されたネットバンキングの金額に、ヒナは卒倒した。
1、10、100、1000、……と指折り数えてみて、億に達する勢いに途中で怯んで止めてしまうほど「0」の数が半端なかった。
「な、な、な」
お年玉を貯めたんだ、なんて可愛い金額じゃない。あり得ないとヒナはその場に固まってしまう。
「ボクの夢って、10代でパパになることなんだよねぇ」
そのために頑張って貯金してるんだ。
と、はにかみながら微笑む樹に、ヒナは言葉を失い後退ってしまう。
「あれ? ヒナ、顔が蒼い。オイ、なに逃げようとしてんの。……逃げんなよ」
じりじり逃げを打つヒナの腕を、樹はガシッと掴んで引き寄せる。
バランスを失って蹌踉めくヒナを、樹は事も無げに抱き留めた。
自分よりもほんの少し小柄な樹に支えられて、けれど、その体躯はビクともしなくて。
ヒナの胸の鼓動が煩いほどに高鳴ってしまう。
そのことを樹に知られたくなくて、ヒナはぐいぐいと彼の胸を両手で押し返した。
でも、愉しそうな顔で自分を拘束する樹の強い腕からは逃れられなくて。
端から見て可哀想なほどに、ヒナは混乱して慌てふためいた。
彼の双眸はそんなヒナを捉えて満足げに片微笑む。
「逃がさないよ。ふふっ、いい傾向。ボクの言いたいことが何となく分かってきたんだ? だから怖くなった?」
樹の言葉に、ヒナの動きがピタリと止まった。
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