Ⅴ ~罠~

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「……さっきから樹くん、パソコンで何してるの?」  ヒナは樹の肩越しにパソコンを指差した。  「見たい?」と樹が聞くので、ヒナはこくりと頷いた。  テーブルに置いてあるノートパソコンを取りに行った樹は、ヒナの近く、カウンター前にそれを置く。 「おいでおいで」と手招きされ、チェアに腰掛ける樹の隣へと移動したヒナは、彼が弄るパソコンをチラリとのぞき込んでみた。  画面には折れ線グラフが細かく表示されている。 「樹くん、これなに?」 「株価だよ」  パソコン画面に視線を戻した樹は、カシカシとキーを打ちながら答えた。 「……株価?」 「ん。小さい頃から父さんに教えてもらっててね。株とかで儲けた利益を資産運用とかに回して遊んでる。これはボクの趣味」  ちなみに今すぐ動かせる貯蓄額は――――と、樹はキーを弄り出す。  画面に表示されたネットバンキングの金額に、ヒナは卒倒した。  1、10、100、1000、……と指折り数えてみて、億に達する勢いに途中で怯んで止めてしまうほど「0」の数が半端なかった。 「な、な、な」  お年玉を貯めたんだ、なんて可愛い金額じゃない。あり得ないとヒナはその場に固まってしまう。 「ボクの夢って、10代でパパになることなんだよねぇ」  そのために頑張って貯金してるんだ。  と、はにかみながら微笑む樹に、ヒナは言葉を失い後退ってしまう。 「あれ? ヒナ、顔が蒼い。オイ、なに逃げようとしてんの。……逃げんなよ」  じりじり逃げを打つヒナの腕を、樹はガシッと掴んで引き寄せる。  バランスを失って蹌踉めくヒナを、樹は事も無げに抱き留めた。  自分よりもほんの少し小柄な樹に支えられて、けれど、その体躯はビクともしなくて。  ヒナの胸の鼓動が煩いほどに高鳴ってしまう。  そのことを樹に知られたくなくて、ヒナはぐいぐいと彼の胸を両手で押し返した。  でも、愉しそうな顔で自分を拘束する樹の強い腕からは逃れられなくて。  端から見て可哀想なほどに、ヒナは混乱して慌てふためいた。  彼の双眸はそんなヒナを捉えて満足げに片微笑む。 「逃がさないよ。ふふっ、いい傾向。ボクの言いたいことが何となく分かってきたんだ? だから怖くなった?」  樹の言葉に、ヒナの動きがピタリと止まった。
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