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そう。ヒナは分かってきたのだ。
彼の言葉や態度は、はっきりし過ぎるほどに明確な自分へのアピールだと。
樹の双眸も彼のセリフ通り、「ヒナに照準合わせて現在進行形で狙ってます」と察することができるほど、以前にも増して態度も言葉も露骨になってきている。
固まるヒナの腰に回された、樹の腕。
拘束する力が次第に強さを増してゆく。
上目遣いで覗き込むようにして見つめられ、あまりの至近距離に酸欠状態に陥るヒナは、喘ぐように浅い吐息を繰り返すことしか出来なくて。
「ヒナ、ボク頑張って貯金するから、安心して嫁に来てね?」
あからさますぎるほどに想いを体現する樹に、ヒナはどう言葉を発したらいいのか、なんて回答するのが正解なのか、全く分からない。
ただただ、戸惑うばかりだった。
今の気持ちを例えるなら、じりじりと崖っぷちまで追い詰められているような、たった一人敵地に放り込まれ四面楚歌な状態で矢を射られる寸前、絶体絶命な窮地に立たされているような、そんな切迫感に苛まれるのは何故だろうか。
樹の秋波混じりな色めいた視線に曝されているうちに、カーッと身体が火照ってきて、顔に熱が集中し出す。
ヒナは赤くなった顔を隠すようにして両手で頬を覆い、樹から思いきり顔を背けた。
「……そそそそんなの、考えたことない」
口の中でぼそぼそと呟くヒナに、樹はしたり顔でほくそ笑む。
「じゃあ、考えて」
「……ムリだよ」
消え入りそうなほどに小さな囁き。
ヒナの胸に顔を埋めるようにしていた樹の片目が、不快げに細められた。
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