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「いいいたい、いたい! いい、樹くん。壁に、壁に押しつけられてるよ、私っ」
ヒナの反応を観察するような顔つきで、樹はじっと見つめてくる。
密着する身体、唇が触れてしまいそうなほどの距離感に、ヒナは動揺のあまりボンッと音を立てて真っ赤になってしまう。
「……いいんじゃない。潰れちゃえば?」
痛い痛いと訴えるヒナに、樹は嬉々とした顔でさらに力を加えていく。
壁と樹に挟まれて、本当に押しつぶされるんじゃないかと危惧するような勢いで、さらに強く押しつけられた。
「……うぁ、いた、いぃッ」
ついにヒナの口から涙声の悲鳴が上がった。
痛みにきゅっと顔が歪む。
「……うぁ、ヤバ。カワイー……」
耳元を掠める感嘆の声に、ヒナは羞恥のあまり、まるで陸に上がった魚のように口をパクパクと喘がせてしまう。
「泣きそうなその顔がたまんない。……ゾクゾクする」
小学生とは思えないほど艶っぽい声で、うっすらと目尻を赤く染めながら、樹は溜息混じりにそんなことを呟く。
ヒナはムッとして、
「なんでそんな意地悪なことばっかりするの! 樹くんのお母さんに言いつけるからね!」
必殺・お母さんにチクってやる作戦という、幼稚園児並みの発言をしたヒナに、樹は一瞬きょとんとし、次の瞬間、爆笑した。
「あっははは! 17にもなってなにそのセリフ! ありえない!」
現役小学生に馬鹿にされて、ヒナの顔は悔しさにさらに紅潮してゆく。
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