2644人が本棚に入れています
本棚に追加
樹は昔からどこか冷めた子供だった。
あまり他人には悟られないが、樹はかなりの人見知りだとヒナは知っている。
子供らしく笑っていてもどこかよそよそしく、ヒナには偽りの仮面みたいに感じた。
だから、ヒナは聞いたことがあった。
『他の人と話す時、樹くんはなんでそんなヘンなカオで笑うの?』
ヒナの問いに、樹は大きな目をさらに大きく見開いて、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。そして、西洋人形に似た可愛らしい顔が、ムッとしかめっ面になった。
『……ヘンな顔ってたいがい失礼なんだけど。無表情でいるより笑ってた方がみんな油断するだろ? だから笑ってるだけ。でも、なんでそんなふうに思った?』
『だって、ヒナといるときと笑ってる顔がちがうもの』
――――樹くんの笑顔が全然違う。
ヒナと居る時は、もっと楽しげで、弾むように笑っていると思うから。
そう言って、ヒナはにぱっと笑った。
『ふうん。ヒナはバカだけど、聡い子でもあるよね。人の心の機微には敏感。余計なことばかりを鋭く感じとって、何か自分にも出来ることはないかって常に考えてる。自分が損してるって事にちっとも気付かない真性のバカだ。他人に嘘吐かれても裏切られても利用されても、ヒナは怒らない。信じることをやめない。仕方ないねって哀しい顔で笑うだけ。……見ててイライラする。でも』
ヒナはポカンとした。
中学校に上がったばかりだったヒナには、当時7歳の樹が何を言いたかったのか分からなかった。
『あれ? 私今、貶されてる?』その程度しか理解出来なかった。
『感情の薄い……それこそ言葉通り薄情なボクだからこそ、溢れるほどの感情をぶつけてくるヒナに、惹かれるのを止められない』
口を半開きにして、両目を大きく見開いて、いかにも理解してませんというヒナの顔を見て、樹は微苦笑を浮かべる。
最初のコメントを投稿しよう!