Ⅴ ~罠~

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『……ヒナは可哀想だね。ボクなんかに好かれちゃって』 『え? なにが言いたいのかちょっとよくわかんないけど……あ、でも、樹くんに好かれて、ヒナは可哀想じゃないよ。嬉しいよ、ありがとう』 『そっか。ボクに好かれて嬉しいって思ってくれるんだ。ありがと。でも、やっぱりヒナは可哀想だよ。だって。Il ne manque pas par tous moyens. Il m'appartient partout dans vie. (ボクからは絶対に逃げられないもの。キミは一生、ボクのモノだよ)』  いきなり樹の口から飛び出した流暢な外国語に、ヒナの顔がパアッと輝く。 『うわー、英語もしゃべれるの!? スゴイね、樹くんは!! 私なんてI am a pencilくらいしかしゃべれないよ!』  と、習ったばかりの英語を喜色満面で披露するヒナに、樹はがっくり肩を落とした。 「いや、これはフランス語……しかも、その英文ありえない。ヒナは鉛筆なの?」  堪えきれず、樹は「ぶはっ」と噴き出すと、演技のにおいのない自然な笑顔を浮かべた。  それは、ヒナが一番好きな笑みだった。
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