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夢と現実の間をゆらゆら彷徨っていたヒナは、隣に感じた心地よい温もりと滑らかな肌の感触に、ゆっくりと目を開けた。
「いッ……!」
あまりの驚きに呼吸が止まる。太鼓を叩くようにして心臓がドッドッドッと音を立てる。
あどけない樹の寝顔がキスするほどの近さにあったのだ。
硬直したまま目を閉じることさえ出来ないヒナは、樹を真正面から直視する。
日本人離れした白い陶器のような肌。
女の子のように長いアッシュブラウンのまつげは、頬に向かって長く濃い影を落としている。
薄く開いた薄桃色の唇は、呼吸のたびに小さく動く。
――――さっき樹くん、この唇で……私にキス、してきたんだよね……。
先ほどのキスを思いだしてしまい、一気に血が逆流してきて顔がほてり出す。
ヒナはざわつく胸をギュッと押さえた。
なんだか背筋がゾクゾクするような、そわそわと落ち着かないような、不安を誘う感覚に支配される。
不整脈かというほどに胸の鼓動が速さを増していき、耳に響くくらい大きく高鳴る。
不可思議な感覚にヒナは狼狽した。
唇が触れてしまいそうなほどに近しい距離感が猛烈に恥ずかしくなってきて、樹から距離を取ろうとするけれど、彼の手がヒナの服をぎゅっと掴んで離さない。
――――ひぃぃッ、どうしたらいい? どうしよう、どうしよう……っ!
逃げようとすればするほど樹の腕の拘束が強くなるようで。
ヒナは諦めて力を抜き、胸の鼓動を落ち着けるために何度も深呼吸を繰り返す。
最後にハーッと大きく息をつき、ポツリと呟いた。
「……樹くんが、近すぎるよ……」
物理的な距離、そして、互いの心が寄り添う距離感が、以前よりも近くなってきている気がする。
――――もう、もう、……ホントに、困る。
擦り寄るようにして樹の顔がさらに近づき、ヒナの唇の端に彼の唇が軽く触れた。
瞬間、思考回路がプツンとショートしてしまい、眠る樹に寄り添うようにして、ヒナはシーツの海に沈んでしまった。
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