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「ヒナが作る? ふふっ。ヒナの手料理は奇天烈で面白いから、ボクは好き」
何が飛び出してくるか分からない、それはまるでびっくり箱のよう。
そう思って、樹はクスクス笑う。
料理を手際良く皿に盛りつけると、テーブルへと綺麗に並べてゆく。
朝食の準備が終わり、樹はヒナが消えた浴室へと視線を流した。
まだ出てくる気配がないことを確認して、携帯を取り出す。
発信履歴から該当の名前を押した。
しばしのコール音の後、眠そうな声が樹の耳に届く。
『……はーい。もしもし? 樹くん?』
「杏璃? 一応報告しとこうと思って。例のヤツ、今日使うから」
『えぇっ!? そんないきなり!? あ、あたしも今日ガッコ行くわ』
眠そうな杏璃の声が、打って変わって一気に覚醒したものに変わる。頑として登校拒否を貫いていた彼女の変わり身の早さに、予想通りの反応だと樹は失笑をもらした。
「そう。別に構わないけど。ボクからはそれだけ。じゃーね」
まだ杏璃は何か話していたけれど、樹は構わず携帯を電源ごと落とした。
鼻歌交じりにパソコンからプリントアウトした一枚の写真を、樹は丁寧に茶封筒へと仕舞い、封をする。
それを制服の内ポケットへと大切に納めた。
そして、ヒナが駆け込んだ脱衣所の閉じられた扉を、うっとりとした眼差しで眺める。
「早く出ておいで。可愛い、可愛い、ボクの、」
テーブルに両肘をつき、蕩けるように甘い――――けれど、ヒナには決して見せられない毒を孕んだ嬌艶で凄絶な笑みをその顔に浮かべると、樹は狂おしいほどに焦がれ続ける少女の名を、歌うように呟いた。
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