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「よいしょっ!」
朝食を樹と一緒に済ませたヒナは、大きなキャンバスが入った専用の鞄を肩に担ぎあげた。
ヒナが動く度、巨大な鞄は玄関の壁やらシュークローゼットやらにガンツンガツン音を立ててぶちあたる。終いには樹の頭にゴッとぶつかった。
「きゃあっ! 樹くんゴメンッ、痛い!? 大丈夫!?」
「……ボクは大丈夫。でもヒナ、その鞄はボクが持つよ。ヒナが持ってたら危なそうだし」
痛む頭をさすりながら、樹は不安げな面持ちでヒナの鞄に手を伸ばす。
樹の手が肩に触れると同時にヒナは制服を翻し、彼の手を退けた。
樹の気遣いを嬉しく思いながらも、ヒナは微苦笑を浮かべて首をふるりと横に振る。
「ありがとう、樹くん。でも、大丈夫だから。これくらい平気」
小さな子供がすっぽり入るくらい大きな鞄を、小柄なヒナが持つ。
その様子を、樹は悔しそうに見つめながら唇を噛んだ。
「ダメだヒナ。それはボクが持つ。そんな大きい鞄持ってて車とか自転車に引っかけられたら危ないよ。……ねえ、ヒナ。お願い。――――ボクに持たせて」
玄関から外へ出ても、樹はずっとヒナに繰り返し言い募る。
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