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ヒナはその度に笑顔で振り返り、
「だーいじょうぶ! 慣れてるもん。これくらい平気っ」
そう言って樹の申し出をやんわり断った。
けれど、彼はちっとも納得してくれなくて。
何度も断るうちに、ヒナはだんだん申し訳ない気持ちになってくる。
でも、それ以上に、ヒナよりも小柄な樹が持ったりしたら、バランスを崩して転んでしまうかも知れない。
ヒナもバランスを取るのに必死なのに、樹を危険な目に遭わせてしまうかもと考えただけでゾッとする。
だから、安易にお願いすることは出来なかった。
でも、ヒナより背が低いことを樹はとても気にしている上に、子供扱いされることはさらに嫌っている。
そんなことを言ったら間違いなく彼を傷つけてしまうだろう。
そう思い、ヒナは曖昧な返答しか出来なかった。
その時、後ろからヒナを呼ぶ声がして、ふたりは同時に振り返った。
そこにいたのは、ヒナのクラスメートの類だった。
「あ、類ちゃんおはよう」
「おう、バカヒナ、身体大丈夫か?」
子供じみたイジワルな笑みを浮かべながら、類はヒナの頭をくしゃりとかき混ぜた。
親しげな彼の仕草に、樹の双眸が険しく曇る。
子犬がじゃれつくような二人のやりとりを、樹は冷ややかな眼差しでじっと見つめた。
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