Ⅴ ~罠~

12/23
前へ
/207ページ
次へ
 ヒナはその度に笑顔で振り返り、 「だーいじょうぶ! 慣れてるもん。これくらい平気っ」  そう言って樹の申し出をやんわり断った。  けれど、彼はちっとも納得してくれなくて。  何度も断るうちに、ヒナはだんだん申し訳ない気持ちになってくる。  でも、それ以上に、ヒナよりも小柄な樹が持ったりしたら、バランスを崩して転んでしまうかも知れない。  ヒナもバランスを取るのに必死なのに、樹を危険な目に遭わせてしまうかもと考えただけでゾッとする。  だから、安易にお願いすることは出来なかった。  でも、ヒナより背が低いことを樹はとても気にしている上に、子供扱いされることはさらに嫌っている。  そんなことを言ったら間違いなく彼を傷つけてしまうだろう。  そう思い、ヒナは曖昧な返答しか出来なかった。  その時、後ろからヒナを呼ぶ声がして、ふたりは同時に振り返った。  そこにいたのは、ヒナのクラスメートの類だった。 「あ、類ちゃんおはよう」 「おう、バカヒナ、身体大丈夫か?」  子供じみたイジワルな笑みを浮かべながら、類はヒナの頭をくしゃりとかき混ぜた。  親しげな彼の仕草に、樹の双眸が険しく曇る。  子犬がじゃれつくような二人のやりとりを、樹は冷ややかな眼差しでじっと見つめた。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2644人が本棚に入れています
本棚に追加