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「類ちゃんっ、頭グシャグシャにするのやめてっていつも言ってるでしょ!」
ヒナは類の無礼な手をパシンと叩き、彼に弄られてあちこち飛び跳ねる髪を両手で押さえ付けた。
そして、逃げるように類と距離を取り、目尻をつり上げて長身の彼をキッと睨みつける。
そんなヒナを居丈高に見下ろした類は、ふんと馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「なんだ、元気そうじゃん。ズルか?」
「違うよ、じんましんが出たの! まだブツブツ残ってるけど、広がってないから学校来たんだよっ」
「ふーん? 顔には出てないんだな、湿疹。ってかお前、そのカバン目立ちすぎ。それか? ヒナが言ってた『太陽とイノシシ』の絵」
「『狼』! イノシシ違うよ、『太陽と狼』。皆なんで違うこというかなっ」
河居先生も違うこと言ってたし。と、ヒナは憮然とした顔で唇を尖らせた。
「カバンが歩いてるみてえ。それ貸せ。持ってやるよ」
類の言葉に樹の身体がビクリと揺れた。
彼を見据える双眸に鋭さが増してゆく。
「……なんでアンタがそれを持つの」
低い怨嗟(えんさ)の声。
敵意を剥き出しにしたその声に、類は初めて樹の存在に気が付いた顔で彼を見下ろした。
「ん? 見たことある顔だな。あ、いつもヒナにくっついてるガキだ!」
知ってる知ってると破顔する類に対し、樹の顔からはすぅっと表情が抜け落ちてゆく。
「おら、ヒナ。さっさと貸せ。ってか逃げんなボケ」
嫌がるヒナから類は無理やり大きな鞄を奪い取る。
瞬間、樹の両眼が愕然と見開かれた。
まるで、傷ついたような色を刷いて。
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