Ⅴ ~罠~

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「類ちゃんっ、頭グシャグシャにするのやめてっていつも言ってるでしょ!」  ヒナは類の無礼な手をパシンと叩き、彼に弄られてあちこち飛び跳ねる髪を両手で押さえ付けた。  そして、逃げるように類と距離を取り、目尻をつり上げて長身の彼をキッと睨みつける。  そんなヒナを居丈高に見下ろした類は、ふんと馬鹿にしたように鼻を鳴らした。 「なんだ、元気そうじゃん。ズルか?」 「違うよ、じんましんが出たの! まだブツブツ残ってるけど、広がってないから学校来たんだよっ」 「ふーん? 顔には出てないんだな、湿疹。ってかお前、そのカバン目立ちすぎ。それか? ヒナが言ってた『太陽とイノシシ』の絵」 「『狼』! イノシシ違うよ、『太陽と狼』。皆なんで違うこというかなっ」  河居先生も違うこと言ってたし。と、ヒナは憮然とした顔で唇を尖らせた。 「カバンが歩いてるみてえ。それ貸せ。持ってやるよ」  類の言葉に樹の身体がビクリと揺れた。  彼を見据える双眸に鋭さが増してゆく。 「……なんでアンタがそれを持つの」  低い怨嗟(えんさ)の声。  敵意を剥き出しにしたその声に、類は初めて樹の存在に気が付いた顔で彼を見下ろした。 「ん? 見たことある顔だな。あ、いつもヒナにくっついてるガキだ!」  知ってる知ってると破顔する類に対し、樹の顔からはすぅっと表情が抜け落ちてゆく。 「おら、ヒナ。さっさと貸せ。ってか逃げんなボケ」  嫌がるヒナから類は無理やり大きな鞄を奪い取る。  瞬間、樹の両眼が愕然と見開かれた。  まるで、傷ついたような色を刷いて。
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