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「ちょっと! いいよ、返して類ちゃん!」
ヒナは取り返そうと類に飛びつく。
必死になって手を伸ばすけれど、ひょいひょいっとかわし続ける類に、ヒナは鞄を取り戻すことが出来なくて。
類の周りを飛び跳ねながら「返してよもうっ!」と、ヒナは目に涙を溜めて声を荒げた。
いじめっ子といじめられっ子そのままな構図に、ヒナは目尻に溜まった涙を誤魔化すように瞬きを繰り返す。
「ははっ。なに泣いてやがる。ガキかお前。俺様が親切心で持ってやるって言ってんだ。甘えとけドチビ」
「ひ、ひどっ! なんでチビにドがつくの!? 私、そんなに小さくない!」
「は? 今何センチよ?」
「160センチになったよ!」
「ははっ! ちびっ子だよ。180越えの俺と比べたらドがつくちびっ子だよお前」
残念な子を見るような目で類はヒナを見下ろした。
ヒナは怒りに頬を紅潮させフルフルと小刻みに震えながら、思いつく限りの文句の言葉を羅列した。
「いい加減にして、返してよもう! バカッ、ハゲちゃえ! 類ちゃんなんてもう絶交だから!」
「うわっ、小学生かお前! 文句の言葉がガキの頃と変わってねえ。ボキャブラリー少なっ」
身体をくの字にして笑い出した類に、ヒナはチャンスとばかりに鞄に飛びついた。
けれど、簡単に振り払われて弾き飛ばされる。
黙って二人の様子を見つめていた樹は、キュッと唇を噛み締めて、爪が食い込むほど手のひらを強く握りしめた。
「……なにそれ。ズルい。ズルいよ。……ちくしょ」
ふたりの後ろ姿をじっと睨み付けながら、樹はぽつりと呟いた。
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