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「笑うなんてひどい! 樹くんなんて、き、」
「嫌いとか言ったら、嫁に行けないカラダにしてやる」
ヒナの言葉を遮るように樹は言い放った。樹の顔からすっと笑顔が消え、刺すような眼差しがヒナを射る。
「うっ……こ、怖いん、ですけど」
アンタホントに12歳!? そう言いたくなるセリフに怒気を滲ませながら、樹はドスの効いた声で威圧してくる。
――――私、年上なのに! 言い返せないくらい……こここ怖い……っ!
ビクビクとした顔でヒナは樹を窺う。
樹はいつもそうだ。
西洋人形じみた可愛らしい顔に凶悪さを纏わせて、自分をビビらせて喜んでいる。
その顔は、まさにいじめっ子そのもので。
いじめられてるのは、彼より5つも年上な自分だと言うことが情けない。
年長者らしくしたところで、彼のIQ190を超す驚異の頭脳と、大人をも黙らせる達者な口には敵わない。
だから、毎回悔しげな表情で、泣きそうな瞳を樹に向けるだけで終わってしまうのだけれども。
「うぅ、可愛いのに、憎たらしい……」
ヒナは口の中でブツブツ呟きながらムッと樹を睨む。
けれど、樹の方は全く気にとめた様子もなく、でれーんとヒナに寄りかかったまま。
「はあ……たまんない。このままエレベーター止まってくんないかな」
大きなアーモンド型の目をうっとりと細め、恐ろしげなことを言う樹に、ヒナは思わず「ええ!?」と吃驚(きょうたん)の声を上げてしまう。
その時、チンとまた涼やかな機械音が響き、扉がゆっくりと開かれる。すっと離れた樹に、ヒナはホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあね、樹くん」
ヒナはバイバイと手を振って、そのまま階下へと降りようとした。
「……そうはさせるか」
すかさず樹が手を伸ばし、ヒナの腕をグッと掴む。
そして、閉まる寸前の扉からヒナを掠め取ったのだ。
「ええ!? なんで?」
「ふざけんな。ボクに怪我させて自分だけサヨナラってありえなくない? ヒナは加害者なんだから、ボクの気が済むまでずっと傍で看病するべきだろ」
……うん。確かにそうかも知れない。と、ヒナはうぐりと言葉を詰まらせる。
悪いのは全面的に自分だ。ヒナは顔を顰めながらうんうん唸り、迷った挙げ句、仕方ないかと諦めた。
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