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「あれ、樹くんがいない!?」
バッと後ろを振り返ったら、樹の姿がなかった。
いつも初等部と高等部の分岐点である川沿いまで一緒に行くのに。
ヒナは不安になって辺りに視線を流し、樹の姿を探した。
「あ? ガキはガキ同士で先に行っちまったんじゃね?」
軽い口調でそう言って、類はヒナに「行くぞ」と先を促す。
ヒナは類を見た。
さんざんもめたが、結局類が持ってくれている大きな鞄。
「……樹くん」
彼はどう思ったのだろう。
樹の様子から、きっと彼こそが、ヒナには大きすぎるこの鞄を持ってあげたいと思ってくれていたのだろう。
けれど、それは樹には難しくて。
分かっていたから、ヒナは了承しなかった。
類には文句を言いながらも結局持たせているのに。
類に頼ることが出来ても、樹には頼ることが出来なかった。可の返事を返してあげることが出来なかった。
後悔に似た感情がヒナの心を占める。
もやもやする感情を持て余しながら、ヒナは重い足取りで類の後を追った。
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