2644人が本棚に入れています
本棚に追加
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
樹はヒナと離れ、振り返らずに足を進めた。
着いた先は、学校近くの古びたアパートだった。
外堀の花壇に植わる木の陰に身を隠し、アパートの2階を見上げながらポケットに手を突っ込む。手に触れる四角い金属を掴んだ。
父親である鷹城総一郎の第一秘書をしている里中徹に頼み、欲しい情報は事前にもらっていた。
大体の状況は把握している。
ほどなくして、視線の先の扉が開く。
樹は手にしたデジカメで、現れた人物を撮影し始めた。
「ちょっと、早くして! 遅刻するでしょ! 純人ッ」
慌てて出てきた女性は、新しく赴任してきた樹のクラスの担任・飯島凜だった。
「はいはい。もー凜はせっかちだなー」
そして、彼女の後に続いて出てきた、モデルのようにバランスがとれた体躯の男。彼は、ヒナのクラスメイト・間宮純人だった。
担任の飯島凜が同棲している相手、それが彼なのだ。
片唇を吊り上げた樹は、ふたりの姿をデジカメで撮影しながら、ふと思った。
あの男が制服を着ていなかったら。
ふたりはきっと、違和感なく普通の恋人同士に見えるだろう。
――――けれど、自分とヒナは?
最初のコメントを投稿しよう!