Ⅴ ~罠~

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 けれど、もし。  もし、ヒナが自分ではなく、彼女を守れるほどに大きくて逞しい大人の男を選んでしまったら。  そんな男がいいと、ヒナが望んだら。  その時、自分はどうしたらいいのだろう。  埋まらない時間。  変わらない年齢の差。  成長の違い。  全てが。それら全てが、疎ましくて。  樹は自分の手のひらを見つめた。  あの大きな鞄を容易くヒナから奪い取った類とは違う、小さな手。  ヒナを守ってやれない、それは子供の手だった。 「……ちくしょうっ」  ギリと手のひらを握りしめた。  小刻みに震えるほど、甲に健が白く浮かび上がるほど、爪が手のひらに食い込むほど、強く、強く、憎しみをぶつけるようにして。 「……忌々しい……」  けれど、諦めることなんて出来はしない。  ヒナは自分のものだ。  ずっと昔にそう決めた。  もっと早く、早く、大人にならなければ。  ヒナに相応しい男にならなければ。  ヒナを守れる男にならなければ。  さもないと、ヒナは誰かに奪われてしまう。  それも、近いうちに。
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