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けれど、もし。
もし、ヒナが自分ではなく、彼女を守れるほどに大きくて逞しい大人の男を選んでしまったら。
そんな男がいいと、ヒナが望んだら。
その時、自分はどうしたらいいのだろう。
埋まらない時間。
変わらない年齢の差。
成長の違い。
全てが。それら全てが、疎ましくて。
樹は自分の手のひらを見つめた。
あの大きな鞄を容易くヒナから奪い取った類とは違う、小さな手。
ヒナを守ってやれない、それは子供の手だった。
「……ちくしょうっ」
ギリと手のひらを握りしめた。
小刻みに震えるほど、甲に健が白く浮かび上がるほど、爪が手のひらに食い込むほど、強く、強く、憎しみをぶつけるようにして。
「……忌々しい……」
けれど、諦めることなんて出来はしない。
ヒナは自分のものだ。
ずっと昔にそう決めた。
もっと早く、早く、大人にならなければ。
ヒナに相応しい男にならなければ。
ヒナを守れる男にならなければ。
さもないと、ヒナは誰かに奪われてしまう。
それも、近いうちに。
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