Ⅴ ~罠~

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「そんなことさせない。……誰かに奪われるくらいなら」  自分の内に秘するように、柔らかな真綿にくるむようにして、ヒナを隠してしまいたい。  誰にも見せてなどやらない。  ヒナの目には自分しか映らないように、鎖で縛り付けて、逃げ出せないようどこかに閉じ込めてしまいたい。  覚めない悪夢に苛まれ、心を蝕まれ、そんな狂暴で利己的な欲求を、衝動を、だんだん押さえきれなくなってゆく。 「……ホント、狂ってる」  大切に、ただひたすらに、大切に。   守りたいと願う気持ちと同じくらいの強さで、自分から離れてしまうくらいなら、いっそ壊れてしまえばいいとさえ思う。  握りしめた手のひらを緩めてみる。  食い込んだ爪で手のひらの薄い皮膚が破れてしまい、鮮血が滲んでいた。  ――――自覚してる。  自分こそ、どこか壊れてしまっているのだと。  自嘲するように唇を歪め、手のひらを汚す朱を舌先で舐め取った。 「わかってる。それまでは、ヒナに『ボク』を受け入れてもらうまでは。邪魔な存在は、速やかに『排除』しないと」  ――――ヒナを奪われないように。  沈み込むような昏い声でポツリと呟く。  手にしたデジカメを鞄に直し、顔を上げて前を見据える。  そして、樹は消えた二人の後を追いかけるため、どす黒い鉛のような重い気持ちを抱えたまま、きびすを返し、走り出した。
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