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「そんなことさせない。……誰かに奪われるくらいなら」
自分の内に秘するように、柔らかな真綿にくるむようにして、ヒナを隠してしまいたい。
誰にも見せてなどやらない。
ヒナの目には自分しか映らないように、鎖で縛り付けて、逃げ出せないようどこかに閉じ込めてしまいたい。
覚めない悪夢に苛まれ、心を蝕まれ、そんな狂暴で利己的な欲求を、衝動を、だんだん押さえきれなくなってゆく。
「……ホント、狂ってる」
大切に、ただひたすらに、大切に。
守りたいと願う気持ちと同じくらいの強さで、自分から離れてしまうくらいなら、いっそ壊れてしまえばいいとさえ思う。
握りしめた手のひらを緩めてみる。
食い込んだ爪で手のひらの薄い皮膚が破れてしまい、鮮血が滲んでいた。
――――自覚してる。
自分こそ、どこか壊れてしまっているのだと。
自嘲するように唇を歪め、手のひらを汚す朱を舌先で舐め取った。
「わかってる。それまでは、ヒナに『ボク』を受け入れてもらうまでは。邪魔な存在は、速やかに『排除』しないと」
――――ヒナを奪われないように。
沈み込むような昏い声でポツリと呟く。
手にしたデジカメを鞄に直し、顔を上げて前を見据える。
そして、樹は消えた二人の後を追いかけるため、どす黒い鉛のような重い気持ちを抱えたまま、きびすを返し、走り出した。
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