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初等部の校舎が視界に映る三叉路(さんさろ)。
色づき始めた銀杏の葉が、温い風に嬲(なぶ)られてザワリと梢を揺らしている。
間宮純人と途中で別れた飯島は、今は一人初等部へ向け川沿いを歩いていた。
――――さあ、始めようか。
少し後ろから見つからないように二人の後をつけていた樹は、艶冶(えんや)な笑みを唇に浮かべる。
目の前を歩くスーツ姿の担任教諭を注意深く見据えながら、樹は進めていた足を止めた。
「待って! 飯島センセ」
背後から呼び止められ振り返った彼女は、一瞬驚いたように目を見開くと、ふわりと唇を綻ばせた。
「おはよう、鷹城くん」
淡く微笑む飯島を見て、樹はくしゃりと顔を歪め彼女へと駆け寄った。
「……飯島センセ、杏璃のことで相談があるんだ。聞いてもらえる?」
「え? 杏璃ちゃんって言ったら……6年生になってから登校拒否してるっていう……佐々木杏璃ちゃん?」
樹のセリフに、飯島はハッと真剣な表情に変わる。樹はコクリと頷くと、言葉を続けた。
「うん、そうだよ。杏璃が登校拒否をするようになった理由で、飯島先生に頼みたいことがあるんだ 」
「え?」
飯島のスーツの裾をギュッと握り、樹は縋るような眼差しを彼女へと向ける。
「センセ、杏璃を助けてくれる?」
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