Ⅴ ~罠~

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「河居先生は、杏璃の母方の叔父にあたる人なんだ。ボクね、見ちゃったんだ。終業式のあの日、杏璃は河居先生に……」  瞬間、飯島の手が脅えたようにかすかに引き攣った。  視線を逸らし、樹は彼女に見えないよう口角をわずかにつり上げる。 「ごめん。……ボクの口から詳しくは言えない。これ」  意味深にそう言うと、樹は制服の内ポケットからしっかりと封がされた茶封筒を取り出した。   「飯島先生が、杏璃の手紙を直接河居先生に手渡して欲しいんだ。そうしたら、河居先生が必ず話してくれる。杏璃が登校拒否になった本当の理由を。今日の放課後、必ず渡して。杏璃のために。お願い、先生が彼女を助けてあげて」  飯島は手紙を受け取ると、不安げに双眸を揺らす樹に確認した。 「これは私が見ちゃダメなのね?」 「うん。杏璃に頼まれただけで、ボクも中身は知らないんだ。杏璃はひどく繊細な子だから、見ないであげて欲しい」 「……わかった。杏璃ちゃんからのこの手紙を河居先生に手渡して、担任として私が詳しく話を聞くわ。その後、杏璃ちゃんのおうちに行って彼女からも詳しく聞くことにする。鷹城くん、私に話してくれてありがとう」 「お願いします。飯島先生」  樹は飯島にペコリと頭を下げ、そして、校舎へ向かい駆け出した。
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