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その日の放課後、ヒナは大きな鞄を抱えて美術室へと向かった。
完成した絵を美術部顧問である河居にみてもらいたかったからだ。
けれど、残念ながら美術室には誰もいなくて。
河居の姿を探して美術準備室の扉に手をかけた時、そこから女の人の話し声が聞こてきて、ヒナは恐る恐る中の様子を窺った。
「杏璃ちゃん、今日も学校来てなかったんだよ。それでね、登校拒否の理由、河居先輩に詳しい事情を聞けって言われて。クラスの生徒から杏璃ちゃんの手紙、預かってきたんだけど」
「杏璃の手紙だって? 凜がクラスの生徒から?」
――――リン?
聞いたことのある名前に、ヒナは記憶を辿るように視線を落とし、足元を見つめる。
訝しむような河居の声と、ガサガサと紙を触る音がして、ハッと息を呑む気配がした。
「嘘っ、なにこの写真……イヤ……イヤッ」
女の人の鋭い声と慌てたようにビリビリと紙を破る音、そして、ガタンと何かが転がる大きな音がした。
驚いたヒナは、準備室の扉についた掌ほどガラス窓を覗き込む。
そこには、河居先生と苦しげに頭を振る女の人の姿が見えた。
「あ、あの女の人……!」
ヒナは目を瞠った。
確か、あの女性は純人の初恋の女性ではなかったか。
ヒナは以前その女性をみたことがあった。
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