Ⅵ ~ライバル参戦~

8/30
前へ
/207ページ
次へ
「……美術の河居ちゃんって、女に乱暴働くようなキャラだったかな?」  首を傾げる類に、ヒナは怒りのまま口を開く。 「私もそんな風に思ったことなかったっ。河居先生がそんなことするなんて……信じられない、信じたくないよ。でも、私、見ちゃったんだもん! 嫌がるリンさんの上にのっかってた……リンさん、すごい嫌がってた、怖がって泣いてたんだよ! 絶対許せない!」  興奮冷めやらぬヒナを落ち着かせるために、類は宥めるようにしてよしよしと彼女の頭を撫でた。 「よく知らせてくれたな。ヒナは偉い、偉い」  類は常にない優しい声で慰めの言葉をヒナに紡ぐ。  ヒナは不安に揺れる瞳を類に向け、口籠もりながら問うた。 「リンさん、大丈夫だよね? すみちゃん行ってくれたから、もう大丈夫なんだよね?」 「ああ、あいつ、普段はふにゃふにゃな軟体動物野郎だけど、いざとなったら頼りになる。喧嘩もあり得ねえほど強いし」 「うん、うん、そうだよね、大丈夫だよね」  ヒナは安心したように、唇を小さく綻ばせた。 「ほら、これ使え」  そう言って、類はハンカチをヒナに渡した。  ヒナはそれを受け取ると、涙でぐしゃぐしゃになった顔をおずおずと拭う。 「……類ちゃん、ありがと。洗って返すね」  熱を持ち腫れぼったくなってしまった目を上げて、ヒナは類に礼を言った。 「お、おう」  うっすらと目尻を赤く染めた類は、恥ずかしげに頭をガシガシ掻きながら、ヒナにぶっきらぼうな返事を返した。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2645人が本棚に入れています
本棚に追加