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その後、ヒナと類は二人で美術準備室へと向かったのだが、しんと静まり返った室内はすでに無人だった。
それから類に付き添われ、ヒナは学校を後にした。
校舎を出た時には、オレンジだった陽は翳り薄暗くなっていた。
「ヒナ」
ふいに声を掛けられ、ヒナはバッと振り返った。
校門の塀にもたれ掛かるようにしてこちらを見つめているのは樹だった。
「え、樹くん!? どうしたの!? こんな時間まで……」
「ヒナを待ってたんだ」
樹はヒナが出てくるのを、ずっとここで待っててくれていたらしい。
赤く腫れた目を隠すように俯いたヒナは、樹に掠れた声で「ゴメンね、待っててくれてるなんて思わなかったんだ」と申し訳なさそうに頭を下げた。
悲しげな彼女の様子を満足げに眺めた樹は、視線をヒナから類へと向ける。
「ところで、ヒナ。なんでまたこの男と一緒なの?」
樹の剣呑な眼差しが類を射る。
「類ちゃんのこと? 同じクラスだからだよ」
「……なにそれ。全然納得できない回答だよね。ボクが何を聞きたいか、ヒナ、分かってる?」
質問と答えがズレていると、樹は頭を振る。
二人のやりとりをじっと聞いていた類は、ヒナに寄り添う生意気な子供を上から下まで検分するように眺めると、ハッと嘲笑を浮かべた。
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