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「飯原さん?」
バックヤードで商品を整理していると、宮本さんに声をかけられた。
彼は私が働く本屋のアルバイトを統括する責任者で、見るかに穏やかで優しいお兄さん的存在の人。
私は仕事の手を止めて、後ろを向いた。
「今日、バイト終わってから時間あるかな?」
「あっ……」
優しく微笑む彼の顔を直視できずに下を向いてしまった。
1か月前、彼から告白された。
その時は即答できずに返事を先伸ばしにしてもらっていた。
それから1か月、彼は1度も返事を急かしてくることもなく、それまでと変わりなく接してくれている。
そんな彼の優しさに甘え、自分の気持ちと向き合わずにきてしまったことを激しく後悔した。
「あの……」
「あ、返事を急かしてるわけじゃないから。ご飯でもどうかなと思っただけで、なんなら誰か誘ってもいいし」
どこまでも優しすぎる彼に、これ以上は気を遣わせてはいけないと思った。
この仕事も大好きだし、できることなら続けたいから、いつまでも中途半端にはできない。
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