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崖上まで登るとリリィはゆっくりと着地して俺を下ろす。ほぼ同時にリリィも着地し、俺の脇の下から腕を抜くと、再び服の裾を掴む。その間に俺は進むべき方角がここからなだらかな下りになっているのを確認する。
「サンキューな。これで先に進める。先を急ごう。ここからはコイツで行けそうだ」
俺は魔法の中からバギーを取り出す。二人でも乗れるのはデコレンディーネとの移動で確認済みだ。俺はリリィに手を貸してバギーの後ろに跨らせると自分がその前に乗る。それでもリリィは俺の服の裾を離さない。
バギーのエンジンを回し、プロペラを回転させる。
「魁君、気を付けてね。これって魔力を使って動いてるんでしょ?」
「え、何が、っととと」
リリィの言葉に返事をしようとしながら少しだけグリップを回転させただけのつもりだった。普段と変わらない発進をしているはずなのにプロペラは凄い回転を起こし、バギーは急発進する。俺は慌ててブレーキをかける。しかし緩やかとはいえ下り坂。平地で止まる事しか考えられていないバギーが止まれるはずなかった。
「なんだ、なんだ?」
俺は焦りながらもハンドルから手は離さない。今離したら変な方向に曲がってしまいそうなくらいハンドルが振動しているからだ。
「だから言ったでしょ!?魔力濃度が高いんだから、いつも以上に力が出るんだって!」
後ろで半分叫ぶように言うリリィ。そりゃ話では聞いてたけど、こんな事になるとは思わなかったな。
「でもちょうどいいや。これなら兄貴の所に速く着ける」
どうせブレーキをしてても止まれないならと俺はグリップをさらに捻る。プロペラの回転数はさらに上がり、バギーはいつも以上の速度で加速しだした。
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