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「これを越えるのか」
俺は崖の下の方から崖上を見上げる。とても見えたもんじゃない。兄貴達はこれを越えたんだろうか。それともちょうど真後ろに当たる唯一伸びる道から進んであっち側に行ったんだろうか。どっちにしても兄貴達が動かないとも限らないからここを越えられるに越した事はないんだけど。流石に簡単に登れるほど低くは無い。所々にある突起部分に上手く足を乗せられれば登れるかもしれないけど、それだって経験のない俺には危ないはずだ。ラグナに来て色々経験したと思うけど流石にロッククライミングの経験はないしな。
「飛んじゃおうか。少し魔力使っちゃうけど」
俺の傍で一緒になって崖上を見上げていたリリィが簡単に言う。リリィに抱えて飛んでもらえば確かに越えられるだろうけど、あまり魔力の無駄遣いは出来ないはずだ。かと言って他に手立てはないんだけど。
「魔力、大丈夫だよな?」
「これくらいならなんでもないよ。戦闘で使う魔力とかに比べれば微々たる物だから。でもいくら微々たる物でも限りはあるから、基本は使えないよ」
リリィの魔力こそが俺の生命線である。リリィの言う事には従うしかないだろう。
「じゃあ、あまり魔力を消費しないように頼む」
「うん。じゃあ、ちょっとごめんね」
リリィは裾から手を放し、そのまま俺の脇の下に腕を回す。そのままリリィの身体から浮きだして持ち上げられるようにして俺の身体も宙に浮く。バギーの走る速度と同じ速度で飛べるはずのリリィだけど、魔力の消費を抑えてくれているのか、その登る速度は非常にゆっくりな物だった。
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