2507人が本棚に入れています
本棚に追加
日本に発つ日。
見送りに来てくれたのは、母親と朝陽だけ。
父親はもともと多忙な人だから、滅多に時間を合わせられないことも知っている。
それに、あと2年もしたら、家族全員で日本で暮らすことは決まっているから。
「大翔、空港とマンションに着いたら連絡しなさいね。くれぐれも派手に日本の女の子を連れ込んだりしたらダメよ。」
「分かってますって。」
何も知らない母親は、未だタブーな話題の地雷を土足で踏む。
「兄貴。」
「ん?」
「あとちょっとだけ待って。」
最終のアナウンスまでの5分。住み慣れたこの国と少しの間別れなくてはならないと思ったら、急に寂しくなってきた。
俺よりモテて、勉強もスポーツもできる欠点の見つからない弟のことが嫌いな時もあったけど、本当はすごく優しくて大切なものほど扱いが不器用になる朝陽が可愛くて仕方なかったこと。
一生懸命覚えた日本語で、俺と話す弟と離れるのが1番寂しいかもしれない。
もう喧嘩することもしばらくないのかもな……。
「大翔!」
時間になって搭乗口へと進む俺の背中に、ちひろの声が聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!