第8話

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『 久しぶりだね 』 聞き間違いではないだろうかと 何度も 何度も 先程の先輩の声が私の耳元で木霊する。 嘘みたい。 夢、じゃないんだよね? 真っ直ぐ視界に映るのは、 先輩の黒いストレートの前髪。 ……昔と全然、変わってない。 漆黒の瞳が月光に反射して、吸い込まれてしまいそう。 今、目の前に居るのは、本当に本条先輩なんだよね? その姿を、声を、顔を、何回も忘れようとしてきた。 そしてその度に、やっぱり出来ないと、 先輩への気持ちを諦める事を拒み続ける自分を嫌いにもなった。 写真を見ては、声を、笑顔を思い出して、 今、何してるのかな……って想像を巡らして。 締め付けられるような胸の痛みを抱え続けてきた。 ……夢じゃ、ないんだよね?…… どうしても未だに実感がわかない。 ありきたりだけど、頬を抓ってみたら 痛く、、なひ……。 ……あ、あれ? あっ、やっぱり、……これは夢なのかな…… こんな都合よく先輩が目の前に現れるなんて事、あるわけがない。 幻を見て、 幻聴が聞こえてしまった自分は相当参ってるなと、 気持ちと共に顔を沈めるように俯きかけた。 「ーー何を投げようとしてたの?」 「!?」 柔らかい声が頭上から降ってきた事に、 ピクリと反応して身体を揺らす。 いや、いやいやいや!!! やっぱりやっぱりっ、夢じゃないっ!!! 項垂れた顔を勢いよくあげたら、私の目の前には先輩が居る。 ちゃんと、居る!! 「えっ、いや……あのっ……」 良かった、夢じゃない。 うん、良かった……と深く安堵すると同時に、 先程の先輩の声を手繰り寄せる。 待って、そうだよ!?
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