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自室の向かい側にある部屋に入ると、私は口の中だけでただいまを言った。
部屋の主はベットの上で穏やかな寝息を立てていて、起きる気配はない。
今日も勝手に借りていた度なしの地味メガネを机に置き、クローゼットを開ける。中にズラリと並ぶフェミニンなワンピースとウィッグの数々。
目についたものをそれぞれ引っ張り出し、身につけ、奥にしまい込んである化粧品を同様に引っ張り出し、アイメイクだけ施すと、また奥に押し込んで片付ける。
クローゼットを閉めて、今度は本棚からまだ読んでいない本を一冊選んで抜き取る。
借りるよ、と小声で呟くけれど、部屋の主はベットの上で寝息を立てるだけだ。
私はため息を吐いて部屋を後にする。
何があったのか、首に絞められたような青黒い痣をこさえて帰ってきて以来、この部屋の主はこんこんと眠り続けている。
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