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マンゴラドラのページにドックイアーがされている。
パラパラと本をめくってみるけれど、他に端っこが折られているページは見当たらない。
私は再びマンゴラドラのページに戻って、白黒で描かれたイラストに目を落とした。
『ナス目ナス科マンゴラドラ属。紫色の花を咲かす。』
何の面白みもない本から顔を上げ、空を見る。
ここは利用者のいないハイキングコースを、少し外れた場所にある。さわさわと風に揺れる葉の向こう側の青空は、どこまでも澄み切っていた。
そう遠出をしているわけでもないのに、日常から切り離されたような、どことなく不安で、そのくせワクワクするような、そんな不思議な気持ちが湧いてくる。
この本の持ち主も、今までずっとこんな気持ちを味わっていたのだろうか?
私はなにやらくすぐったいものを感じ、また、借り物の本に目を落とす。
『根を引き抜くと、金属と金属とが擦れ軋むような非常に不愉快な悲鳴を上げ、その声を聞いたものは発狂もしくは死んでしまう、という伝説があるが、これはマンゴラドラの持つ幻覚、幻聴を伴う強い毒性によるものだと考えられる。』
背中に薄ら寒いものを覚えて振り返るけれど、平和そうにさわさわと木々の葉が揺れ動く以外、特に何があるわけでもない。
私はため息を吐いて、本を閉じた。
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