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🌑
朝起きると、まず最初に昨日持ち帰った紫の花を確認するのが、ここのところの日課になっていた。
俺はビニール袋の中を覗き込んで舌打ちをする。昨日まではちゃんとあったのに、今は土しか入っていない。
これで一体何個目だ?
部屋を埋め尽くさんばかりに溢れかえる、土のみ入ったビニール袋を見回して、また舌打ち。数えるのも馬鹿らしく、面倒だ。
ムシャクシャした気持ちがぐんぐん膨れていく中、俺は紙袋にスコップと雑巾とビニール袋を押し込んで、出かける準備をした。
リセットしないことにはやってらんねえよ、まったく。
足に馴染んだ汚らしいスニーカーを履いて、俺は人の寄り付かないスポットを歩き回る。
幸い、それはすぐに見つかった。
背の高い草が生えまくってるせいで視界の閉ざされた、小さくて古くさくて人のいない公園に、今日はチビ犬とチビ犬のリードを握るガキが一人。
俺はぶらぶらとガキに近づく。
よう、と言って片手を上げると、ガキもチビ犬もポカンと俺を見た。
「なあ、これ、知ってるか?」
紙袋に手を突っ込んで、園芸用のスコップを取り出す。そしてガキが何か言い出す前に、チビ犬に振り下ろす。
鈍い感触が手の平に伝わり、チビ犬から血が噴き出した。続け様、二、三度振り下ろすと、チビ犬はぶっ倒れて動かなくなる。
ガキがこれでもかというくらいに目を見開いたから、大声を上げられる前に全力で腹を蹴り上げてやったら、おもしろいくらいポーンと吹っ飛んで動かなくなった。
俺はうるさいのが嫌いだ。大声でわめかれたり、叫び声を上げられると、ひどくムシャクシャする。
前に、勝手に俺の“安全地帯”に入り込んで、一人で大声上げて叫びまくってた奴がいたことがある。あれは本当に最悪だった。
「これな、リセットっていうんだ。こーすると、ムシャクシャした気分が魔法みたいに消える。すげえだろ?」
誰にともなく口を動かし、チビ犬の残骸をスニーカーで踏みつけた。生々しい肉の感触。
脳裏になぜかあの紫の花が浮かぶ。
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