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「かっこいい」
と千丸が言えば。
「そうでござろう」
十兵衛は得意げにうなずいている。すると、うしろで咳払いする声がする。舌打ちしながら十兵衛は背を伸ばし姿勢を正す。後ろを見れば老臣、氏清晴景(うじきよ・はるかげ)が、じっとふたりを見据えていた。
「そちの鷹好きにも困ったものじゃ」
「何を言う。鷹のあの優雅さ、強さに惚れてどこが悪い」
「わしが言いたいのは、鷹を馴らせず飼えもせぬくせに、というのじゃ」
と言われ、ばつが悪そうに十兵衛は黙り込み。千丸はおかしそうに十兵衛を見やった。晴景はおかしそうにするでもなく、これまた黙って口をつぐんでいた。内心、本心の奥の奥では口には出さぬが、今自分たちがどこに何をしに行くのかわかっているのか、と言いたかったのだ。それを言わなかったのは主の輝種の心情を慮ってだった。しかし若い十兵衛にはわからない。
息子や家来たちの会話が聞こえているのかそうでないのか、輝種は黙々と馬を進めていた。やがて山道に入り、狭いあぜ道の上り坂を登ってゆく。その先に、式頭城の大手門が見え。そこに、中村家の門番らしき家来が数人たむろしていた。
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