第一章 夫婦雛 その一

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 家来たちは大高家一行がお城にやってきたのを受けて、馬から下りた一行を待たせてひとり場内に入っていった。ほどなくして、番人の頭らしき髭面の男がやってきて。こちらへ、と太く威圧的な声で一言言って、後ろも見ずにずかすかと城内に導いてゆく。馬は大手門の前で番人が預かった。  男は降伏した被征服者に礼をつくすような優しさは持ち合わせていないようだ。他の番人も同じようで、皆面白おかしそうに一行を見ている。   千丸はその男たちを見て怯えている。まだ十一の少年には、男たちの威圧的な態度はただ怖く。今にも鬼となってとって食われるのでは、と思った。  十兵衛はそれを見て取って、男たちを睨みつけ、千丸のそばにいてやった。晴景はすすすとさりげなく輝種のそばにいてやった。輝種も千丸同様どこか怯えているようで、思わずため息をつきそうなのをかろうじてこらえた。  山頂に本丸がある。大高氏の居城、大高城とは規模が違う。大高城は小高い山の上にたち、一応の高塀と空掘をめぐらせた、大農家の館を少し大きくしたようなこぢんまりとした小さな城だが。式頭城は近代的なつくりで、都の貴族、とまでいかぬものの、大富豪が住むような大きさ、それに加えて風情と壮麗さがあった。 「これが城か」  と思わず十兵衛はうなり、千丸はその大きさに顔を目一杯上げて本丸を見上げている。 
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