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つい回想に浸ってしまった。
誠が家出した日、俺の机の上にタンポポが一輪置かれていたっけ……
もっと義兄(あに)らしいことをしてやれば良かったかもしれない。
今更後悔しても、あいつが帰ってくるわけではないが。
ジンベースのトムコリンズを飲み干して、会計しようとした時だ……
入り口のドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
入って来たのは、20歳位の青年が一人。
小柄で細身、特に個性のない普通の格好。
「あの、まだ大丈夫ですか?」
青年がバーテンに尋ねる。
「はい、まだ営業中です。どうぞ」
じっくり容姿を観察したつもりはない。
俺は男に興味などない。
しかし、青年の声には聞き覚えがあった。
痩せて神経質そうだが、目鼻立ちの整った幼い顔立ち……
まさか……
そんなはずはーー
青年とバッチリ眼が合った。
その瞬間、お互いが誰だか悟った。
「和馬兄さん……」
「まこと……なのか?」
青年が出ていこうと踵を返したので、俺は慌てて席を立ち腕を掴んだ。
「お前誠だろ?」
「違う、僕は……」
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