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6年以上も前に別れたきりなのだから、多少容姿が変わっていても不自然ではない。
だが記憶に残る声は変わらない。
左目の下にある小さな泣き黒子も……
「お前今まで何処にいたんだ!?おふくろや義父がどれだけ心配したと思ってるんだ」
誠は諦めたのか、ゆっくりこちらを向いた。
逃げないとわかって俺も腕を離す。
「ごめんなさい……兄さん」
「俺に謝る必要はない。とにかく元気そうで安心したよ」
「お二人とも座ってはいかがですか?」
ドアの前に突っ立っている俺たちに、バーテンが声を掛けた。
「飲みに来たんだろ、座ろろうぜ」
誠は黙って頷いた。
「俺はジンフィズ、ミルクなしで。こいつは……」
何が好きなんだ?
「チャイナブルーを・・・」
小声で遠慮がちに注文する誠。
「トムコリンズとジンフィズは兄弟のようなカクテルですね。かしこまりました」
変わってないな……。
その時はそう思った。
「まさかこんな路地の、目立たない店で再会するなんてな。お前も上京してたのか、何してるんだ」
「・・・接客のバイトです」
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