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立て付けの悪い木製の開き戸は開ける度に軋んだ音を出す。
しかしその扉を開けると香ばしい珈琲の匂いがフワッと僕の嗅覚を刺激する。
別段珈琲に詳しいわけではない僕でも、この香りには癒される。
店内は少し薄暗い。照明が機能していないわけではなく、店長によると幻想的な雰囲気を出すためにあえて薄暗いものを選んだそうだ。
いつの時代の音楽かわからないけれど、レコードから流れている女性の少しハスキーな声もそのような雰囲気を助長している。
二脚の椅子が置かれたテーブル席が三席とカウンター席が六席。つまり集客人数は十二人である。
こじんまりしていると思われるかもしれないが、僕はこの店の席が埋まっていることを見たことがない。
というより客が来ることすら珍しい。
そんなことで大丈夫かと最初は心配していたが、時給九百五十円はちゃんと支払われるし僕的には仕事が少ないのは有り難いので文句はない。
店の奥にあるロッカーで制服に着替える。ロッカー室には四つのロッカーがあるけれどこちらも僕以外に使っている人を見たことがない。
なので多分この店の従業員は僕と店長の二人だと思う。
白いシャツに黒の前掛けというシンプルな格好だけど田舎育ちの僕としてはなかなかスタイリッシュだと好感が持てる。
そんな制服に着替えて店の方に戻るとカウンター席の一席に、僕と同じ制服に身を包んだオールバックの男が座っていた。
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