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「あ、店長」
カフェ・迷いの森の店長、向田藤之助(むかいだとうのすけ)は胡散臭い。
そのやり手実業家を思わせるようなぴっしりとした黒髪オールバックもさることながら、年齢は四十五歳と言いつつも肌の艶、さらにすらりと伸びた手足、ほっそりとした長身は完全にモデル体型だ。
もっと言うなら、開いているかどうか分からないような糸みたいな目。いつもニヤニヤと笑っていて何を考えているか分からない。それに私服は何故か和服だ。
そして極めつけは……
「だ、誰!?!?」
店長は人の名前を覚えない。お客さんや業者の名前はもちろんここで一年近く働いている僕の名前すら覚えない。
「月島です!月島満(つきしまみつる)」
「あー……そうだそうだ。今日もよろしく頼むよぃ」
「いい加減覚えてくださいよ」
悪い悪いとぼやきながら店長は夕刊を読み始めた。
「見たまえ月山くん。今日も恐ろしい事件が起こっているよぃ」
「月島ですって!」
店長から渡された夕刊の一面には最近世間を騒がせている通り魔の記事が載っていた。
警察が躍起になって調べている事件だが、全く手がかりが掴めていないらしい。犯人はまさに神出鬼没。そして被害者には一貫性がなく、老若男女あらゆる年代の人が犠牲になっている。
しかしたった一つだけ共通点がある。それは死体のある一部がないこと。
「また人差し指泥棒か……。確かに怖いですよね。なんの理由があって人差し指だけ切断していくんだろう」
いつの間にか用意した珈琲を一口飲むと、店長はいたずら好きの子供のような笑みを浮かべた。
そして逆に僕に質問してきた。
「なんでだと思う?フフフ……。本当にいつの時代も人間というのはねぃ」
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