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開いているのか分からないような目を僅かに開けて、店長はほくそ笑みながら空になったティーカップの底を覗いている。
この店で働き始めた最初の頃は店長が何を考えているのかを必死で解明しようとしていたけど、三ヶ月も経たないうちにやめた。
学校の友人たちでさえ何を考えているか分からないのに、こんな胡散臭さを絵に描いたような人の思考が僕に読み取れるはずがない。
「あーそうだつき……月島君。学校はどうだぃ?もう慣れたかぃ?」
店長はこうやって僕のことを気遣ってくれる。慣れない都会で不安を抱えまくっていた僕だったけど、店長が色々教えてくれたお陰で少しずつ都会の生活にも慣れてきた。
胡散臭いけど信頼できる人だからこそこの店でのバイトを続けている。
「流石に一年も通えば友達もできたし、人並みには楽しくやれてますよ」
「それは結構結構」
そう言って空になったティーカップを僕に差し出す店長。どうやらおかわりを要求しているらしい。
僕がそのティーカップに珈琲を注いでいると、立て付けの悪いドアが音をたてた。
「やぁ。久しぶりだね月島君」
やって来たのは古美術商の寺岩戸明(てらいわどあきら)さん。数少ないこの店の常連客だ。
しかし最近はあまり店に顔を出すことがなかった。店長によると、世界中を旅して骨董品を探し集めていたらしい。
ただこの人も僕から言わせると胡散臭い。古美術商なのに茶色く染まった髪、伊達らしい眼鏡の奥の瞳はカラーコンタクトのお陰で夕日のようにオレンジ色だ。
黙って座っていればテレビに出ている芸能人と何ら大差ないルックスの持ち主だが、口から出る言葉は下ネタばかり。
胡散臭いというかもう変態だと思う。
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