序章

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 せわしない昼下がりの王都。 人ごみの中に、一際目立つ大きな影があった。  煌々と燃える炎のような赤髪が、通る人の目を引く。人より頭の位置が一段高いこともあり、なおさら目立っている。 また、その背中には、身の丈の半分以上もあろうかという大盾が背負われており、すれ違う人の大半を二度振り返らせる。  その足取りは、ふらふらとどこか所在無げであり、どこを目指しているのかわからないままに街を進んでいる。  司祭の格好をした男が、石段の上から人ごみに向かって声をかけている。どうやら今日は祈りの日らしい。 年に一度の祭事に浮き足立つ人たちで、教会へと向かう人の流れが出来上がっている。 それに逆らって進んでいるため、人と幾度となくぶつかりそうになる。 なんとか流れを抜けて道のわきに出ると、その影は、出店の立ち並ぶ細い路地へと入っていった。    同様に、王都から少し離れた所にある衛星都市では、町の人々は、そう時間をおかずに始まる祭りの準備に追われている。  賑やかな街の中を、祭りに向けて用意された商品を運ぶ他のものと何ら変わらない、幌付きの荷馬車がゴトゴトと音を立てて進んでいる。  しかし、馬車の中には、祭りの準備のための荷物の代わりに、フードを目深に被りマントまで着込む、こちらは、一際小さな影がある。  フードに隠れた表情からは、ひどく緊張していることが読み取れる。 無言のまま、爛々と光らせた眼を前に向けて、小さな体をさらに小さく丸め、周囲を警戒している。  馬車の周りには同じくマントにフードといった出で立ちの者たちが、散らばりながら歩いている。 その一帯には、浮ついた街の雰囲気とはかけ離れて、張りつめた緊張感が漂っている。  馬車は町の中心部にある建物へとゆっくりとしたスピードで進んでいく。    王国に潜むものを、誰も感じることはない。  日常が侵されていること知らないままに日々を過ごしていく。 この物語はこの王国に潜むものに、正義の味方よろしく、天誅を下すものではない。 むしろどうしようもないくらいに利己と欺瞞に満ち満ちた、救いようのない物語である。  ーーー王都にほど近い場所にて、二つの影が交わるとき、物語は始まる。
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