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五月。
桜もほとんど散り、
新しい学年にも慣れはじめ、
決まった授業を繰り返す毎日になっていた。
僕ら高校二年生は慣れ親しんだ学校で、
受験のプレッシャーも感じず、GWの余韻を残しながら、ダラダラと過ごしていた。
僕と、同じクラスの大田正は、
自転車である場所に向かっていた。
正は成績は良かったし、
細身だが運動もできなくはなかった。
でも、クラスでは目立つことはなく、
暗くて一人でいることが多かった。
整えることもなく伸ばした髪は、前髪が顔の半分近くまで長くなり、いつも先生に注意されていた。
その髪のせいではっきりと素顔が見えず、
クラスの女子からは気味悪がられていた。
さらに、根っからのオタクということもあって、正はクラスから浮いた存在となっていたけれど、本人はそのことをあまり気にしている様子はなかった。
「優、またフラれたの?」
横断歩道で信号を待っていると、正がニヤニヤしながら言った。
「な、なんで知ってるんだよ? まだ言ってないのに」
「クラスの女子が話してるのを聞いたんだよ。
確かこれで十一回目だっけ? おめでとう」
「なんで祝うんだよ! こっちはへこんでんだから、少しは励ますとかしろよ」
そう言って、正の肩を殴ろうとしたが、
かわされ、バランスを崩した。
信号が青に変わったので、僕らはペダルをこぎ始めた。
「いい加減、慣れないの?
それだけフラれたら」
並んで走る正が、
嫌味のこもった言い方で聞いてきた。
「慣れる訳ないだろ、全部本気なんだから。お前も、一回くらい告白してみれば
気持ちが分かるよ」
僕が皮肉たっぷりに言い返すと、
正は「フンッ」と言って
反論して来なかった。
横断歩道を渡って、
しばらく進むと左に曲がって、
住宅街に入る。
そこからひたすら真っ直ぐ行くと、
目的の古びた小さなアパートに到着した。
僕たちは階段を上り、三階の一番奥にある
三〇五号室の扉の前に行き、
インターホンを押して中に入った。
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