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「んー、変身機器の回収はやはり無理だな」
俺こと御劔・ES・志狼は得物の短刀、鎧通しに分類される物を空に消して、寂れた港から立ち去ることにする。
依頼は【HERO・エバーライトの抹殺】だけなので、彼の変身機器を回収する必要性は全く無いのだが、あったらあったでHERO連盟相手に交渉を優位に進めたり、悪の組織に売り込んで小遣いにするのも悪くない。
「あーブルーくん、鈴木くん、御仕事終了だよ、お疲れさまでした」
『別に俺ら要らなかったんじゃないか?』
非難するように呆れ声で通信を入れてくるのはブルーくん。ハンドレスタイプの社用通信機器で、顔は見たくないのでサウンドオンリーである。
「誰かが後ろを固めてくれてるって安心感と、見られてるって緊張感が相乗効果を生んで、最高の状態で戦えるんだよ」
『また、上手いこと言って……。
ラカンさんの店で一番高いの頼むからな』
「一杯は一杯、奢るつったら何でも奢ってやるよ。その前に何か食いにいかね?俺は腹が減っちまったよ」
仕事終わりの会話。少人数で事態を制圧することは滅多にないのだが、ブルーくんとは付き合いが長いので気安くこんな会話ができるのだ。
「鈴木くんもそれでいいな?」
『佐々木です、ボス……』
悪かった、と謝る中、小声でやっぱり覚えられてなかったと本気で嘆いて沈む……鈴木くんの音声が拾われている。技術の進歩は恐ろしいものだと密かに思う。
俺はまだ開店している料理店を検索し、そこを撤収後の集合地点に指定する。二人との通信を切った後は港から街へと歩いていく。
あれだけ派手な爆発や発光があったというのに、野次馬どころか消防や警察がやって来る様子はない。
エバーライトを始末する依頼を受けたのは昨日の今日の話なのに随分と手回しが早いものだと感心する。俺が引き受ける前には既に準備されていたことなのだと言うことが分かる。
何時もなら俺たちが痕跡を消したり、発見を遅らせる工作を行ったり、発覚後の情報操作をしているのだが、その必要性はないようなので人員も機材も最小限の物で済んでいる。
更に依頼主が良心的なのかヒーローを殺した俺たちを処理しに来る様子が全くない。態々無防備にも視界を切っているというのに、ブルーくんたちからそれらしいものを見たという報告がない。
警戒している自分が馬鹿らしいので、光学迷彩の装置を起動して闇夜に消えることにした。
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