Not Hero, I'm……

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あれから何事もなく、クリスの連絡先を聴いておき、ホテルから出てきて闇夜に紛れて歩いていく。 未明頃の時間帯に外に出歩く奴は旧時代の不良連中くらいで、善良な市民たちはセキュリティのしっかりとしたお家で安眠を貪っている。 ので、俺たちが住宅街でフラフラ歩いていようとも気づきようがない。監視カメラは旧日本時代からの美徳で道に設置されていることはないので、それらの目を憚る必要はない。 クリスの顔が紅潮していて興奮が抑えられないようで息が熱みを帯びていて、肌が艶やかなので、事後のように見えなくもない。当然のことながら費用は俺持ちである。 「『エバーライト』の抹殺を映像と生で見るのどっちがいい?」 「私は戦闘能力が全く無いから、映像にしておくわ。あなたの邪魔になってもいけないし」 『ヒーロー』と言えども中身は人間、 悪党共と命懸けで闘う戦士であるが殺せば死ぬ、壊せば潰れる少ししぶとい生き物だ。 故にあまり見て気持ちいい絵面では無いが、人は誰しも『ヒーロー』が負ける姿というのを拝みたいと思うものだ。俺がクリスの知る『ヒーロー』殺しとの差違に興味津々なので、チップ代わりのサービスとして提供することにしたのだ。 まあ、第三者からすれば、異様な光景、常識的考えても明らかに逸脱した会話なのだが、生憎と俺たちはマトモな稼業で生きているわけではない。旧時代の世界を思えば、この程度のこと茶漬けの具にもならない些細なことであるが。 「一応、名前教えとくな。 御劔(みつるぎ)・ES(イメラルドソード)・志狼(しろう)だ。 長いからMr.御劔か、特別に志狼と呼び捨てにしてくれていい」 「志狼……シロウ、これは偽名?」 「ファーストネームは本名だよ。 プライベートでは此方を君に呼んで貰えると嬉しいよ、クリス」 「……期待しているわ、シロウ」 俺は『エバーライト』を軽く捻り潰すつもりでいたが、クリスの言葉を受けてその事情は少し変わってしまう。 少なくとも彼女とのデートに漕ぎ着けるには、俺の魅力に釘付けにする必要があるようなので気に入って貰える壊し方をシュミレートする。 「御好みを聴いておこうか?」 「何でもイケる口なんだけど、オーダーしていいなら、させてもらうわ。 そうね……クールなの……背筋が凍って肌寒さを感じるくらいゾクゾクするのが好き」 俺は分かったと返事するのだった。
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