第二十九話

2/4
前へ
/11ページ
次へ
 まずは一から、考え直してみよう。発端は強姦死体遺棄事件だ。その犯人であった阪口は、獄中で開封した瞬間に爆発する仕掛けの手紙で、何者かによって殺害された。おそらくは舞唄の仕出かした”制裁”だ。  ところが、被害者五人全員が発見され、解決するかと思われたが、今度は渦中の舞唄が自首するという匿名通報後に行方不明となった。そして私は高瀬さんと共に、自宅謹慎を言い渡された。しかし、その間にも一切情報が入ってくることがなかった。一人の人間が失踪しても、目撃情報がない。それはかつての璃夢と同じだった。まさか彼女も―――そう考えただけで居た堪れない気持ちでむせ返りそうになった。  そしてあまりにタイミングよく育ての父に、出勤前の柊家で車に押し込まれて拉致・監禁された。どう考えても偶然にしては出来すぎていた。  あとは電話もだ。家に駆け込んだ時に鳴ったというのも、冷静になってみれば、おかしな話だった。きっとどこかで、その姿を監視していて鳴らしたとしか思えない。もしそうだとすれば、いつから監視されていたのかという疑問はあるが、電話の説明はついた。 どこで私の情報を得たのか、そして柊家の幼女であることと、若葉社長のことを知ることができなのか。彼一人が、奔走したところで得られるとは、到底思われなかった。おそらくは情報屋か探偵だろうか。間違いなく情報を探った人物が、別にいると考えるのが妥当だ。  彼に情報を渡した、その情報屋だか探偵だかは、いったい誰なのか。さらに最大の謎は妹であった璃夢の交際相手だ。いつもなら舞唄に任せているところだが、彼女は行方不明中だ。そうなれば、柊が頼みの綱だった。  しかし柊を頼るのには、どうしても抵抗があった。もちろん、信用していないわけではない。ただ不安要素が大きかった。阪口のことを考えれば、舞唄に関われば、命の保証は出来なかった。 「くそっ!」  苛立ちをぶつけるように、私は紙を丸めてゴミ箱へ投げ入れた。それを柊先輩が見ていることも、この時気がつけなかった。私に周りを見る余裕なんて、きっとどこにもなかったのだ。  まだ何も解決はしていないが、自宅謹慎が解けた。そして契約破棄書に不備が見られなかったため、私は高瀬さんとの仮契約関係が解除された。そうはいっても一人だ。契約者がいないから、仕事もできなかった。  本部に勤務する者は、私を含めて千九百八十人ほどだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加