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―――が、私の名前の下に柊先輩の名前があった。一瞬では理解できず、床にしゃがみ込んだまま、反応できなかった。何も言わない私に、柊先輩がしびれを切らして、専属契約書を持って、どこかへ行ってしまった。ぶちまいたゴミを元に戻すことすら忘れて、私はすぐにその後を追った。すると、社長室の前で立ち止まった。
本気だろうか。まだ時間が必要なはずだ。戸惑いながらも一緒に入ると、若葉社長は特に驚かなかった。そうなることを分かっていたのだ。この人は本当にそこがない。どこまでが本心で、どこまでが策略なのか、はっきりした境界線がない人だ。
「専属契約ともなれば、仮契約とは異なって、破棄できないけどいいの?」
「元より破棄する気はありません」
「私も…柊先輩と、同意見です」
柊先輩があっさりと、断言してしまったものだから、私はそれに触発された。
それぞれの顔を見て、覚悟の色を伺えたらしく、若葉社長は本象牙製の角印を引出しから取り出してきた。書類に不備がないか最終確認をしたのち、朱肉を付けて角印をおした。これで正式に柊先輩は、私の専属契約者になった。
まだ実感がわかないでいると、柊先輩が私に向かって、右手を差し出してきた。私はその手を握り返した。これからは柊先輩の傍で、契約者として働くのだと、意識が高まった。
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