金を借りた訳じゃない、俺はプライドを売ったのだ

2/6
前へ
/6ページ
次へ
 街を走る。 近未来的に連なった高層ビルは美しく、上を見上げれば太陽の光が燦々と降り注ぎ目を細めてしまう。 祭りでもやっているのか、パレードを何度か見る。彼もこんな状況じゃなければ楽しめただろう。 一旦息を整えるために路地裏に入る。しつこい、そろそろ諦めてはくれないものか、そんな期待を胸に顔を出してはみるがやはり簡単にはいかない。 撒くしかないか…… そう決心すると彼はまた人混みの中を縫うように走りだした。 楽しそうに笑う兄弟や微笑ましくも顔を赤らめている男女の高校生、それを邪魔するかのようにひまわりの花びらのようなものを顔に着けて顔面は魚、という気色悪いものがじっと見つめている。妙にリアルだ。キモすぎる… 「そこの怪しい奴!止まりなさい!!」 警察官らしき男が叫ぶ。一瞬あのキモイ魚が言われているのかと思ったが違った。まったく……まずはああいうやつを捕まえろよ…どうみても不審者じゃないか……そう心で悪態吐くも全く意味はない。 だがもう追っ手は一人だ、おそらく逃げ切れるだろう。 実際彼は全身汚れている怪しい格好をしているので周りから見たら彼も不審者なので人に言える立場ではなかった、人かわからないけど ……そもそも何故追われなければならないのか。思い出せば怒りがただただ募る。 「あの……!!ピエロ野郎ォォオォォオオ!!!」 走りながらそう叫んだ彼の言葉は祭りの喧騒に掻き消されて誰にも届くことはなかった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加